第1回 長崎の晩夏

◎ 精進落ち

精進落ち

祇園さんで幕を開けた、まぶしい長崎の夏は盆の精霊流しが終わると急速に色あせてしまう。きびしい暑さだけを残して全てが終わってしまったかのように・・・。そんな頃、市場や八百屋には冬瓜が出回ってくる。精進落ちには「とうが汁」。鶏肉のスープに冬瓜と小葱、ピリッとつぶ胡椒のきいた熱いおつゆに、忍び寄る秋の気配が感じられる。

この料理は卓袱料理の家庭的展開だと思っている。宴もたけなわのころ大鉢に季節の菜を配した鶏のスープが白飯といっしょに出される。小さく切られた具や澄んだスープは家庭のそれより遥かに洗練されてはいるものの基本は同じで長崎ならでは味である。

このスープを蓮華ですくって白飯にかけて食するのを「じゅじゅまま」という。料亭で長崎通を気取ってじゅじゅままするのも一興である。

◎ 場所踏み

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6月1日の小屋入りから稽古を重ね何とか形になってきた頃、諏訪神社や八坂神社の石だたみに初めて足を踏み入れ実践練習を始めることを「場所踏み」という。この頃から踊り町はくんちモードに入ってきて心は秋の本番へと盛り上がる。

しかし世の中は残暑きびしい一番暑い季節。風が凪いでうだるような熱帯夜が続く長崎の街。そんな折、場所踏みから町へ帰る囃子の音が遠く聞こえると、一瞬ふっと秋風が体をなめていったような錯覚と、夏が終わろうとしている寂しさが身をつつむ。

場所踏みも回を重ねる度に夜も長くなり、何気に目の前にある大きな月に気がついたり少しづつ少しづつ秋へとシフトしていくのである。

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